「テアトロ」2000年3月号より 
西堂行人
 
 ストアハウスカンパニーの「Wanderers」(構成・演出/木村真悟)は、俳優が舞台中央に築かれた壁の向こう側を歩くことから開始される。その壁は20の分割可能な箱から出来ていて、その箱を使って俳優たちは道をつくり、積み上げて門を形成する。すると、その周辺には都市の迷路が出現するのだ。
 ここでは、箱というモノと俳優という身体が不即不離の緊密な関係で結ばれていることに気づくだろう。彼らにとっての「フィジカル」とは、箱というモノと生身の身体とが合体したさらなる「身体」の「運動」なのである。
 セリフが一つもないこの舞台を見て、わたしはさまざまな暗喩が隠されていることに思いを馳せた。彼らはここからどこへ行くのだろう。俳優たちはここでは旅人だ。しかもどうやら目的を持たぬ、当て途のない旅なのである。もしかしたら、彼らは共同体から追放されたオイディプスかもしれない。やがて彼らは「ここではない向こう」にむかって次々と飛び去っていく。鮮やかな幕切れだ。
では彼らはどこへ行ったのか。わたしは、その方向が気にかかった。
 もしかしたら「さよなら日本」というフェスティバルのメッセージにのせて、未来に向かって身を投げ出していったのだろうか。いずれにしても、わたしはそこに「潔さ」を感じた。彼らはこのようにしてこの現実を認識し、歯噛みしながら生きているのである。